あの日あの時...あの場所で
少し不機嫌な柊に抱き抱えられたまま公園を出ると、柊が乗ってきたらしい黒塗りの車が停車していた。
柊が近付くと運転席から降りてきた人が無言で後部座席のドアを開けてくれた。
「瑠樹、しっかりと掴まってろよ」
と言うと私を抱っこしたまま身を屈めて柊は車に乗り込む。
車に乗っても柊の膝の上とか恥ずかしいんですけど。
「しゅ、柊、下ろして」
と上げた抗議の声は、
「無理」
の一声で却下される。
ですよね...そんな気がしたよ。
柊の胸元に頭を寄せて溜め息をついた。
少ししんどいし、今は柊と言い合いをする事は止めよう。
それに、何を言っても状況は変わんないだろうし。
動き出した車は何処かへ向かって走り出す。
柊がどうしてあの公園に来たのか?だとか。
どうして、咲留と連絡を取ってるのだとか。
色々聞きたかったけど、目を開けてるのがしんどくなって柊の胸元に体を預けて目を瞑った。
「もしもし、俺です」
誰かに電話をかける柊の声がぼんやりとした頭に聞こえてくる。
意識が沈んでいく中、聞いたのは、
「俺が預かります。もうあいつには返さない」
と意志の籠った柊の声だった。
私はスムーズに進む車の乗り心地の良い揺れに最後の意識を持っていかれた。