あの日あの時...あの場所で
暫くすると丸いトレーを手にした柊が戻ってきた。
「体、起こしてて大丈夫かよ?」
心配そうな顔で私をみる。
「ん、眠ったから少しマシ」
ふわりと笑って頷いた。
「ならいいけど。ほら、熱計れ。それから喉が乾いてると思って水持ってきた」
柊は私を隣に座るとトレーをテーブルに置いて、そこにあった体温計とペットボトルを私に手渡してくれた。
「ありがとう」
先に体温計を受け取って脇に挟んでから、ペットボトルを受け取った。
少し不格好な手捌きで蓋を開けるとそれを口に運んだ。
冷たく冷えたそれはとても喉ごし良くて美味しかった。
カラカラだった喉をしっかりと潤してくれる。
「腹減ってねぇか?」
「あ...そう言えば少しだけ」
そう言われたら少し減ったような気がする。
「だったら、帰る前にどっか寄って食うか?」
「あ...うん」
どうやら送ってくれるみたいだ。
「瑠樹、悪いが暫くはうちに居て貰うぞ」
柊の言葉に固まった。
「へっ?」
いやいや...私は私の家に帰りたいよ。
それに咲留だって心配するし。
「咲留さんには連絡済みだ。だから、暫くはうちに来い」
「そんな事言っても、着替えとかないし」
「それなら心配ねぇ。咲留さんがさっき届けてくれた」
はぁ?咲留ってば何してるの?
柊の視線の先には見覚えのある鞄がポツンと置かれてた。
...うん、あれは私のだね。
「どうして?咲留と連絡を取ってるの?」
少し前までは咲留は柊を拒絶してたのね?
それがいつの間に連絡を取り合う仲になったんだろうか。
「瑠樹に好きだと告げてから、咲留さんに許して貰う為に連絡を取り続けた。最初は相手にもして貰えなかったけど、認めてもらいたくて咲留さんの所に通い続けた。それで、瑠樹の近況報告ぐらいは貰えるようになった。まだ近付くのは許さねぇって言われてたけど。今回は居なくなった瑠樹を探すために連絡を貰った」
私に会う為に、そんな事をしてくれてたんだね?柊。
嬉しさに胸が震えた。
「...そっか」
「今回は、咲留さんとは話し合って暫く俺が瑠樹を預かる事になった。今の狼王になんて瑠樹を託せねぇからな」
そう言った柊の瞳は険しかった。
狼王...豪の事だよね?
そっか、柊も咲留も知ってるんだね。
豪の元カノがもどってきた事を。
思い出した途端に胸が苦しくなった。