あの日あの時...あの場所で
ここで暮らすのは...ま、百歩譲って、学校はどうしたら良いんだろう?
今のこの時期にあまり休みたくない。
受験を控えてる。
一日ぐらいなら良いけど、ずっと休んでる訳にはいかないもん。
「...柊、学校なんだけど...」
言いにくそうにそう言った私に、
「本当なら休めって言いてぇけど。そう言う訳にも行かねぇよな?」
眉を下げて聞いてきた柊。
「あ...うん。柊もだろうけど、私も今が受験の正念場だし...」
豪と富田さんには会いたくないけど、そんな事も言ってらんない。
咲留の右腕とまではいかなくても、パパの会社で役に立ちたいもん。
「だよな?分かった。咲留さんとそこは相談する。だから、明日一日だけはゆっくり休め。お前、顔色悪すぎる。ちょっと休息が必要だ」
そう言って私の額を指先でツンとつついた柊。
「うん、分かった」
素直に頷いて微笑んだ。
「熱がなけりゃ風呂でも入ってこい。湯船にお湯は張ってあるからゆっくりとつかれよ」
「ええ!何時の間に?あ、微熱だ」
ここに来てバスルームに近づいてないじゃん、柊ってば。
体温計を取り出して37度と表示されていたそれを見た。
「今はスマホで何でも出来るんだよ。微熱なら汗流してこいよ。ほら、行ってこい。その間に晩飯を出前してもらっとく」
そう言って手に持ってた私の鞄を差し出した柊。
「あ...うん。最近のスマホって凄いね」
感心しながら柊から鞄を受け取って、代わりに体温計を差し出してバスルームへ向かって歩き出した。
「...ゆっくりと入って良いけど、逆上せねぇ程度にな?」
背後から聞こえた柊の声に振り返って頷いてから、バスルームへと繋がるドアを押し開けた。
私の知らない間に、色々な事が大きく変わり始めようとしていたんだ。
この時の私はまだその事に気付いていなかった。