あの日あの時...あの場所で









「お帰り、瑠樹、さぁおいで」

と手を出した咲留。


いや、もう抱っこはいらないし。


「ただいま、咲留。豪、降ろして」

豪は私をストンと咲留の前に下ろしてくれる。


「えぇ、抱っこしたい」

唇尖らすな。


「私には自分の足があるから」

もう抱っこはごめんだ。

人形じゃあるまいし。


「良い気味や、振られてるやん」

源次がやたらと楽しそうだ。


「うるせぇ」

咲留は源次の脇腹に肘鉄を入れる。



「うわっ、痛いやん」

それは痛そうだ。


二人はやいのやいのと揉め出した。


子供だな。




「瑠樹、豪は優しいか?」

ちぃ君が腰を屈めて私の目線に視線を合わせる。


「うん、優しいよ。豪って咲留みたいだし」

一度頷いてから微笑んだ。


「フッ、そうか。良かった」

わたしの頭を撫でると、豪へと視線を向けた。


「まぁ...お前も頑張れ」

意味深に笑うと未だ揉めてる咲留と源次を止めにいく。


「千景も言うてよ。いきなり蹴んなって」

と源次が言う。


「お前がいちいち煩せぇからだろ?」

と源次を指差す咲留。



「どうでも良いし。こんな校門の前で揉めてる場合じゃないと思うけどね?」

無表情で二人にそう言うと、周囲を見渡したちぃ君。


下校途中の生徒達が怯えた表情でこちらを見てた。

しかも校門の正面で揉めてたから、通り道の邪魔してるしね。




「...帰るか?」

「そやな、帰ろか」

現状を把握した咲留と源次は頷き合うと、一先ず端に避けた。
  

「瑠樹帰ろ」

咲留の差し出した手を頷いて掴む。


「あ、咲留さん。ちょっと良いですか?」

私の手を引いて歩きだそうとした咲留に声をかけたのは豪。


「ん?豪どうした?」


「あの、明日からの瑠樹の送り迎えは俺達でやります」

咲留の目を見てしっかりそう告げた豪。


あ、そう言えば言う手筈だった。

すっかり忘れて帰ろうとしてた。



「瑠樹の送り迎え?」


「はい」

豪は咲留が眉を寄せても視線を逸らさない。


さすが、この街のボス。



「...でもなぁ。俺も送り迎えしたいし..」

どうして悩むのよ、咲留。


「咲留だって大学あるでしょ?だから、同じ学校の豪の方が都合良いじゃない」

援護射撃します。


咲留達が来る度に大騒ぎされても困るし。







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