あの日あの時...あの場所で
「豪、瑠樹が楽しみにしてるんですから、機嫌を直したらどうですか?」
夏樹が不機嫌な豪の隣に並んで諌めてくれる。
「...別に不機嫌じゃねぇし」
「フフフ...困った狼王(ロウオウ)ですね」
仕方がないと首を左右に振る夏樹。
「...チッ、その名で呼ぶな」
豪はさらに不機嫌のゲージが上がった。
狼王とは、豪の通り名らしい。
南の王凛の狼王と言えば、誰もが震え上がると教えてくれた。
因みにその情報は梅発信。
以前、豪の事を狼だと言った時に『あながち間違ってねぇ』なんて豪が言ったのは、この狼王が関係していたんだろう。
それぞれの地区を統べるトップには通り名が付いてるらしい。
北の美浜の頭は白虎
東の上瀬の頭は紅
西の西城の頭はキング
と呼ばれてると教えてくれた。
楓や梅は、こう言う情報に何気に詳しい。
桃子と私は関心して、その話を聞いている。
豪達が教えてくれない噂話とかを聞けるので面白い。
「女物の水着売り場とか、豪は入っていかへんやろ?」
「...当たり前だ」
「それやったら、あの子ら居ってくれた方が何かとええし」
「分かってる」
大翔の言葉に、豪は渋々頷いた。
「それに大勢の方が楽しいよ、きっと」
女友達と買い物とか初めてなので、私は浮き足立ってた。
「はぁ、仕方ねぇな?そんな笑顔されちゃな」
溜め息を吐いた豪は私の頭をゆるりと撫でた。
「うん、ありがと、豪」
豪の腕に飛び付いた。
「...ガキか」
と口元を緩めた豪はもう不機嫌じゃない。
「瑠樹は豪を操る名人ですね」
フフフと私達を見て夏樹は眼鏡のフレームを押し上げる。
操るなんて失礼な。
「俺も瑠樹にやったら操られたい」
うわっ、また変態発言してるよ、大翔。
悶えるの止めて。
「うっせぇ」
ほら、豪に蹴られた。
「もう、豪ったら乱暴なんやからぁ。優しくしてや」
気持ち悪く体をしならせた大翔は、
「沈めるぞ」
と豪の突き刺さりそうなほど冷たい視線を受けた。
「じょ、冗談やん、いけず」
そそくさと豪から離れていった大翔は夏樹の後ろに隠れた。
ほんとさ、大翔は毎回なにしてんの?
いつもの光景がここにあった。
この平和を私は手放したくない。