ヒミツの王子さま!
低く、かすれた声の葉月。
窓際の本棚に体を預けていた葉月が、離れていく。
そして――。
「誰かのものになる前に、俺のにしたい」
「きゃ……」
ガタン
椅子が倒れる音と、日向の小さな悲鳴が漏れ聞こえた。
俺は、思わず立ち上がっていた。
「いつまでそこにそうしてるのかと思った。
盗み聞き? 性質悪いね、咲坂ナオちゃん?」
「……」
日向をその腕に抱きながら、葉月は視線だけを俺に向けた。
コイツ、学祭の時に日向の場所を聞いてきたヤツだ。
頭もよくて運動神経もいいなんて、うさん臭い。
「え……な、ナオ!?」
葉月の腕の中から逃れようと身をよじる日向は、大きな瞳をさらに見開いた。
目には涙が溜まっている。
その顔を見た瞬間、何かが俺の中で弾けた気がした。
「……なにしてんだ、アンタ」
自分でも驚くくらい、低い声。
そんな俺にも、葉月の余裕たっぷりの表情は崩れなくて。
口角をキュッと持ち上げると、さらに日向を引き寄せた。
「邪魔しないでほしいな。友達の恋路だよ?」
「るせぇ……何、泣かしてんだよ!」
鞄を放り投げて、窓に手をかけると図書室の中に飛び込んだ。