ヒミツの王子さま!
2年Α組――
騒つく教室。
俺はみんなの前に立ち、成瀬先生に紹介を受けている。
『咲坂ナオさんだ。みんなー仲良くしてやってくれなぁ』
「・・・・・よろしく」
俺はなんとか声を絞り出すと教室を見渡した。
転校は何度も経験している。
慣れるもんでもないけど、最初より俺は新しい環境でうまくやっていく術を知っているつもりだ。
けど、今回のこの状況。
何がいつもとは違うって、今の俺は女の制服に身を包んでいる。
仮にも“女の咲坂ナオ”としてこれからこの学校で過ごさなくちゃいけないんだ。
いや、無理でしょ・・・
俺、声だってどう出したらいいかわかんねぇもん。
物凄くアウェーにいる気分だ。
全員が俺に注目し、近くの奴らとなにやらコソコソ話をしてる。
あ~あ、めんどくせぇ。
なんで俺こんな事になってんの・・・
バシッ
ブツブツ言っている俺に気づいて、先生が尻を教科書で殴った。
俺はキッと先生を睨んだ。
『なんだよっ』
『お前少しは笑えっスマイルだ、スマイル!』
小声で先生はそう言ってなに食わぬ顔をして喋り続ける。
「えー咲坂。君からも一言」
・・・ありえねぇ
俺は顔を引きつらせながら二カッと微笑んだ。
「き、咲坂ナオです。よろしく…ね」
ペコリと頭を下げてまた向き直ると、槙野日向と目が合った。
彼女はニコニコ笑って小さく手でOKサインをしてみせた。
…全然、OKじゃないんすけど。
俺はガックリと肩を落とした。