ヒミツの王子さま!
「行ってきます」
「行ってらっしゃい!……ナオ、気をつけてね」
心配するかあさんの声にこたえるかわりに、俺はヒラヒラと片手を上げた。
「……さむ」
玄関を出ると、肌を刺すような空気に思わずマフラーを巻き直した。
結局、俺の退学についてはもう少し審査が必要ってことになって。
それが決議されるまで、普通に学校に通っている。
俺が男だってことがバレてから、数日。
それをいじってくる奴がいるかと思ったんだけど……。
その逆だった。
「はよ」って声をかけても。
誰も答えない。
そう、みんな俺を見て見ぬふりだ。
ま。いいんだけどね。
こんなの転校が多かった俺にとって、珍しい事じゃないし。
だけど、そんな状況でも、臆することもなく話しかけてくる奴もいた。
「ナーオ!おはよぉ」
飛ぶような声が聞こえたと思ったら、背中に感じる小さな衝撃。
――ドンっ!
「……ってぇな! それやめろっていつも言ってんだろ」
「え~? 別にいいじゃん」
ジロリと睨んだ俺を見て、不満そうに唇を尖らせたのは、ポニーテールがよく似合うるみだ。
「おーす。……て、校門の真ん中でやめてくれないかな」
「あ、おはよ!壱也」
変わらないのは、壱也も一緒。
……そのせいで、るみも壱也もみんなから距離置かれてるってのに。