ヒミツの王子さま!
家に帰ると、玄関を開けてすぐにかあさんが飛んできた。
「ナオ! おかえり……」
パタパタとスリッパの音をさせながら、慌ててリビングから飛び出してきたかあさんにチラリと視線を向けて、足元を見た。
「ただいまー」
靴を脱いで「腹減ったー」なんて言いながらマフラーをとる俺を、ずっと見つめてるかあさん。
……。
「……なんだよ」
はあってため息をつくと、俺は振り返った。
その視線の意味はわかる。
最近、ずっと全身に浴びてるんだから。
振り返ると、困ったよう眉を下げるかあさんがいて。
「……今日学校から電話があって……ナオ……大変だったのね」
「んあ? 大変って……俺が男なのがバレちゃったって事?」
俺はそんなかあさんから視線を外して、髪をクシャリとかき混ぜた。
「うん。 大丈夫なの?」
「んー。 ま、大丈夫なんじゃないの?
一緒につるんでた奴らは今まで通りだし、クラスの連中は……どうかな」
「そっか……かあさんのせいだってちゃんと言っていいからね」
一歩俺に歩みよるかあさん。
俺はそんなかあさんに、クイッと口角を上げた。
「っはは。 別に大した事ないって。
……。
それよりさ……俺、ずっと考えてたんだけど……」
俺の言葉を聞いて、かあさんは笑った。
眉をハノ字にして。
目じりを下げて。
笑ってるけど、なんか泣いてるように見えたのは、俺が今こんな状況に置かれてるからなんだろうか。
その日の夜は、新月で。
空は明るいのに、月はどこにも見えなくて。
窓から見上げた満天の星空がすっげぇ綺麗で。
俺はなぜかずっと忘れない気がした。