ヒミツの王子さま!
サラサラの黒髪がやたらと艶っぽい。
長めの前髪の奥には切れ長で黒目がちの瞳。
整った顔。
絵に描いたような好青年。
壱矢とは違ったタイプだけど、コイツもかなりモテそうだ。
その男は悪びれる様子もなく「良かった」とにっこり笑った。
ううッ・・・
こいつ・・・
さっきまで、俺が必死で練習していた
“天使の微笑”とやらを簡単に振りまいた。
なんとなく負けた気がして、俺は一歩二歩と後退りしてしまう。
「あ。キミ・・・もしかして咲坂ナオさん?」
綺麗な唇から俺の名前が呼ばれた。
「え?・・・・・そう・・だけど。あんた誰?」
俺の名前を知っているようだけど、俺はまったく知らないんすけど?
眉間に皺を寄せて不審そうな表情の俺を見て、その男はさらににっこり笑った。
「俺は葉月慧吾(ハヅキ ケイゴ)。2年C組のクラス委員だよ」
そう言って、ケイゴは手を差し出した。
ハヅキケイゴ・・・そういや名前だけは聞いたことある。
勉強もスポーツも万能。
どこの部にも属さなくて、どの部にも定期的に顔を出す。
幽霊部員とも言われているらしいけど、みんなコイツを喉から手が出るほど欲しがってるって噂。
そんなすごいヤツには見えねぇけど?
俺は初めて見るハヅキケイゴをマジマジと見上げた。
それにしても、壱矢もこのケイゴもなんでこんなに背高いわけ?
なんか腹立つ・・・。
差し出されたケイゴの手に自分の手を重ねながら思った。
「咲坂さんってこの後のミスコンに出るんでしょ?
なるほど。
だから他の学年が焦るわけだ」
「は?」
何かぶつぶつ言うケイゴ。
そして、俺を頭のてっぺんから足のつま先まで眺めた。
「なに?」
迷惑そうな顔をした俺を見て、ケイゴは「ごめん」と手を離しながらにっこり笑って見せた。