ヒミツの王子さま!
るみは俯いたまま、何も言わない。
言おうとしない。
「……」
ギュッとスカートを握りしめる手に、力が入ったのがわかる。
あー、そっか。
なるほどね?
唇を噛み締めて、今にも泣き出しそうなるみの顔を見ていて、俺はふと思い出したんだ。
――昨日の、るみ。
『これは……スペシャルサプライズですね。 さて、応えてくれませんか?かおりさん! 高橋くんの想いは届くのか……!』
冷静を取り戻したMCが、再び会場を盛り上げるような進行を始めた。
そう。
あいつ、昨日るみと一緒にいた男だ。
元……彼、だっけ?
好きな子出来たなんて言ってたけど。
ふーん、そういうコト。
『先輩……だけど』
『俺は、かおりが好きなんだ。 なにも気にしないで……俺の気持ちに応えて』
“気にしないで”って……なんつーサイテー発言。
『もう、俺……大丈夫だから』
…………“大丈夫”だぁ?
まじで我慢できねぇ!
るみの事はもう関係ないって?
額に立っていた青筋の切れる音を聞いて、俺はいい雰囲気のステージ上に足をかけた。
でも、その時。
まるで一陣の風のように、物凄い勢いですり抜けていく影が、俺の行く手を阻んだ。
え?
ちょっ……
「……最低!」
――バチンッ!
突然、頬に受けた衝撃に、るみの元彼「ヨウジ」は体のバランスを崩してよろめいた。
「…………」
「……やるね、日向」
俯いていた顔をあげ、真っ直ぐに日向を見つめるるみ。
今にも泣き出しそうな顔して、目のふちに涙をためて。
自分よりも大きな男相手に平手打ちをした日向。
「……バカ」
るみは、とうとう溢れ出した涙を何度も指で拭いながら、そう言ってちょっとだけ口元を緩めた。