社宅アフェクション
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朝練をしている部活は他になく、学校全体が静まり返っていた。また今日も俺が一番乗りだろう、そう思ってつかんだ部室のドアノブは、ゆっくりと回った。


鍵を取りに行く羽目になると思っていたが、先客がいた。


「おはよ、本荘」
「酒田……早ぇな」
「たまにはな。いやぁ、鍵取りに行くのって面倒くさいんだな、案外」


いつも遅刻ギリギリの酒田は、すでに着替えを終えていた。


「返信、見たか?」
「…見てねぇ」
「見ろよな、ちゃんと!本荘が素直にお礼なんて言ってくるから、すぐに返信したんだぜ?」
「そんなに珍しいか?礼を言ったことが」
「今日は雪が降るかと思った」
「もし降ったら、酒田が一番乗りだったことが原因だ」


軽口を叩き合いながら、俺は返信メールを確認した。


 …………………………………………………
 お前が“ありがとう”なんて!!ヤリ降るぜ、
 ヤリ!!でも、ま、気にすんな。結構楽しか
 ったよ、このメンツ。
 あと野球のことだけどな、あんま気負いす
 んな。俺の分まで、とか、本荘らしくない
 からな。つか、まず甲子園行けなきゃ話な
 んねぇし、グダグダ考えてる場合じゃねぇ
 ぞ!そんじゃ、また明日な!
 …………………………………………………


酒田とは中学から6年間、ずっと野球をやってきた。野球が大好きで、本当は陰ですごく努力していたことも、俺は知ってる。それを表面に出さないだけで。


こいつは自分の感情を見せない。本当はすごく悔しくて、誰よりも試合に出たいはずなのに、その思いを冗談でごまかす。このメールだって……


それに気づいたは、ついこの間だ。


「つーか、降るのは雪じゃなくてヤリだろ」
「おい、今メール見んなよ!!なんか恥ずかしいだろうがっ!!」


やっぱり俺は、分かってないんだ。
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