社宅アフェクション
ベンチに戻る俺の肩を、小田原が後ろから叩いた。


「やっぱ強ぇな、川崎正吾」
「悪かった」
「大丈夫だって!気にすんなよ、本荘!切りかえ切りかえ、次は守備だぞ!」


みんなが守備位置に散っていく。俺も帽子をかぶり直し、自分の戦闘場所へ走った。


二回の表、王嶋学園の攻撃は、あの川崎からだった。
うちのピッチャー・遠野の球を、一発でレフト側へ飛ばし、悠々と塁に出た。


その後、2アウト3塁にまで持ってこられたが、遠野と白石のコンビネーションでアウトをもぎとり、得点させることなくチェンジとなった。



試合は、二回の裏、三回、四回、五回と続いたが、互いに得点は入らなかった。
しかし明らかに、藤掛高校がおされている。そう思った。
一向にチャンスが作れない。相手はチャンスだらけで、それをおさえこむのに、俺たちは悪戦苦闘した。


今の藤掛高校の野球部は強い。しかし、相手はスポーツの強豪校、王嶋学園。ここまで無失点で抑えてくるのは必死だった。


俺の体力と精神力は、相当消費されていた。今までどんなに辛い練習でも耐えてきた。練習試合だって、本番の試合だってしてきた。でも…


王嶋のやつらは、それを上回って、俺を襲ってくる。こんなにプレッシャーを感じたのは初めてだった。


外野の俺ですら、この状態だ。遠野は…今どんな気持ちで投げているんだろう。
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