社宅アフェクション
引退式は、思ってたよりもあっさり終わった。
新しいキャプテンが決まって、引き継いで、花束をもらって、飯を食いにいって、解散。


手のケガの心配とか、俺の衝突場面とか、最後の川崎との対峙とか、散々話しかけられたけどなんて答えたのかもなんて言われたのかも覚えていない。


そんなふわふわした感覚の中、引退式を終え、今、家のベランダから夜の月を見ている。


明日からまた学校が始まって、日常に戻る。
野球のない明日……日常って言えるのか？


「こんな感じ……前にもあったな」


いつ、どんな時だったかは忘れた。でも、どう足掻いても手には戻らない、この虚無感……初めてじゃない。


どうやって埋めたんだろうか。分からない。


夜風を受けながらただ呆然とたたずむ俺の耳にベランダが開く音が聞こえた。


「夏の夜風は気持ちいいなぁ。エアコンなんかよりずっといい」
「父さん……」
「お前も飲むか？冷えてて美味いぞ」


父さんの手には、缶ジュースが握られていた。
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