社宅アフェクション
「あれ?帰ったんじゃ……」
「教室に忘れ物したんだよ」
「…忘れ物ってそれ?」


勝彦の手には、今日渡された執事服が握られている。


「あぁ。嫌すぎて存在忘れてたんだ」
「そんなの、別に取り戻らなくても、明日で良かったじゃん」
「……っ!い、いいんだよっ!!」


少し赤くなった勝彦。あれ、もしかして──


「それって、私を待つための口実?」
「ん、んなわけあるかっ!!」


さらに赤くなった。なんか……嬉しいかも。


「さ、早く帰ろ!もう遅いんだから!」
「遅かったのはお前だろ!こんな時間まで─」
「あら勝彦さん。やっぱり待っててくださったの?」
「違う!お前のことなんて待つか!!」
「お化け屋敷は順調?」
「あぁ。7時前には作業も終われたし…」
「忘れ物取りにいくのに30分以上も…?」
「くっ……あ″ぁぁぁ!!うるせぇ!!」


素直じゃないなぁ、勝彦。
そっか。ひとりで帰ったことがないのは、こういうことか。


記憶には残してなかったけど、京子や蒼空や大陸がいない時、こうしてさりげなく勝彦がいたんだ。


こいつ、優しかったんだな、昔から───


「そういえば手、大丈夫なの?試合、中断させてたでしょ?」
「っ…言い方がなぁ……まぁいい。大丈夫だ。鍛え方が違うからな」
「どんくらいだったかなぁ。試合中断してたのは。10分?20分?」
「お前なぁ!!」


笑う私と怒り呆れる勝彦。こんな感じ、久しぶりだ。



夜風が私を包み込んでいく気がした。
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