社宅アフェクション
「かつ兄!早く行こっ」
「あ、あぁ…そう……だな」


俺たちは小声で言葉を交わして、その場を離れた。
その場、とは──非常階段。
ここは俺がひとりになれる穴場で、日も当たらないし、大陸と昼飯を…と思って来た。


誰もいないはず……だった。
まさか真綾と直人がいて、あんな話をしているとは思ってもみなかった。


出店のある広場に戻ってきても、俺の頭から、さっきの光景と会話が離れない。


「直人がそんなこと考えて……」
「だめだよ、かつ兄!!あれは、なおちゃんも知られたくなかったはずだよ?だから、忘れなきゃだめ!!あっ、そこのテーブル空いてるよ!」


俺は、大陸に強引に手を引かれるがまま席についた。


知らなかった。直人が真綾を好きだったことも俺を嫌いだったことも……俺と同じだったことも。


「かつ兄!かつ兄!!」


忘れていいのか?聞かなかったことにしていいのか?少なくとも今、俺たちは──


「かつ兄!!ほら、早く食べよ?」
「ん、あぁ。そうだな、冷めないうちに食べないとな」
「そういえばさ、さっきみた映画同好会のパラパラ動画、すごかったよね!あれのさ──」


大陸は楽しそうに話し続ける。俺は半分上の空で話を合わせていた。
せっかく大陸と2人きりになれて楽しいはずなのに、別の思考が邪魔をする。


あいつらのことなんて、どうでも──
< 255 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop