社宅アフェクション
「俺を羨ましい……か」


俺は、直人の次の言葉を待った。しばらくの沈黙があった。
祭りは続いているはずなのに、周りの音も声も聞こえなくて、風だけが吹き抜けていった。


「真綾は……」


俺とは対照的に、直人は俺に目を合わせようとしない。
そんな直人の口から出てきたことは、待っていたものとは違った。


「やっぱりかっちゃんも真綾が好きなんだね」
「……は?」


急な方向転換に、俺はとっさに返せなかった。
“やっぱり”? “好き”?


「いや、俺は真綾の返事を…」
「なんでそれを気にするの?さっき言ってたけど、なんでモヤモヤするの?」


なんで── それはただ知りたいだけで……


「それはかっちゃんも真綾が好きだから、でしょ?」
「……俺が?真綾を?」


そんなこと、ありえない。


「…分かった。かっちゃんが聞きたがってたこと教えるよ。真綾、OKしてくれたよ。俺と付き合うこと」
「え……」


気にしていた答えが、突然に頭に流れこむ。


真綾と…直人が……付き合う…?
なぜか心臓が跳ねた。うまく頭が働かなくて、こんな時はなんて言えばいいのか分からなかった。


「どうしたの、かっちゃん。ボーッとしてるけど?お祝い、言ってくれないの?」
「お…祝い……」


そうか。友達に恋人ができたら祝うのか。
でもなんでだ?モヤモヤが強くなって、声が出てこない。


「それじゃ。もう行かないと着替えが間に合わないから。喫茶店、繁盛してるみたいだし」


不安定な俺をおいて、直人は校舎に向かって歩き出した。
が、ふいに立ち止まった。


「真綾がOKしてくれたっての、あれウソだからさ。まだ保留だよ。可能性は薄いと思うけど。……安心した?」



そう言って振り向いた直人の顔は淋しげで、思考の追いつかない俺は、ただ呆然と見送ることしかできなかった。
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