社宅アフェクション
「いらっしゃいませ!ご注文をおうかがいします!」
「メイドさん、俺と写真を撮ってください!」
「へっ!?」


さっきからこの調子。メニュー係でもない誰かが勝手に、メニューに「お好きなメイドor執事と写真」なんて載っけたから、こんな注文ばっかりくる。


「はいっ、チーズ!」
「あはは……」


きっと写真には苦笑いの私が写っている。
まったく…真面目な注文はないのかね……


「そこのメイドさん、注文いいかな?」
「はいっ!」


私はとっさに振り向いた。3番テーブルのお客さんが、メニュー片手に手をあげている。顔はメニューに隠れていて見えない。


「あの、ご注文は?」
「かわいいメイドさんとかっこいい執事で写真撮りたいな」
「!!!!」


そういって私を見上げたのは、間違いなく直人だった。


「な、な……」
「どうしたの、ハニー?カッコ良すぎて、声も出ない?」


非常階段で携帯を見て、“先に行くね”と言ったっきり姿がみえなくなっていた直人が平然と席に座っている。


なんか……気まずい。


さっき告白されて、その返事もうやむやにしてしまって、どう接したらいいのか分からなくなって……


「あ……えと…」
「さぁて、おふざけは終わりっ!!遅刻したうえに仕事サボってたら、京ちゃんに怒られる!」
「えっ!?」


喫茶店内を見渡すと、怒り顔の京子が5番テーブルに座っている。私はかけ寄った。


「京子!来てたんだ!」
「まぁな……」
「…なんか怒ってる?」
「っ!!!!聞いてくれよ!!本荘の野郎がさ!来るの遅ぇし、酒田は使えねぇし!かの子はどっか行っちまうし!!」


なんの話かよく分からないけど、大変にご立腹なのは伝わった。
その勢いはまだ続きそうで──


「え~お客様?こちらはグチこぼしバーではありませんので」
「うっさいな!会津はあっち行け!!」
「はいは~い。じゃあハニーも回収っ!!」
「あっ、おい!!」


なんか、あの告白はウソだったみたいに、いつもの直人だった。
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