社宅アフェクション
「うわっ、ダントツ人気じゃん!!この店のホープは………花巻真綾ちゃんで~す!!写真18回、指名9回の大記録出ました~っ!!」


俺は複雑だった。
ガキの頃からずっと一緒にいたはずなのに知らなかった。
直人の気持ちにも、真綾が人気なのも。


ただ近くにいただけで、何も知らなかった。
自分についても。


直人は自分の過去を知り、受け入れて、真綾への気持ちを持ってる。
俺は自分の過去を覚えていない。気づいたら、社宅に住んでて、真綾がいて大陸がいて直人がいた。


なんだか全部が分からなくなりそうだ。


俺はどうして大陸を好きなんだろう。
俺はどうして真綾の近くにいるんだろう。
俺はどうして直人が羨ましいんだろう。


真綾を……好き……


「…こ……か…ひこ……」


違う。俺が好きなのは大陸で、そのはずで…


「…つひこ……勝彦っ!!」
「うおっ!!ま、真綾……」
「なにボーッとしてんの!!みんな後片付けしてるよ!!」
「あ…お、おぅ」


気づけばみんな忙しそうに動いていて、教室の真ん中につっ立っている俺は、明らかに邪魔だった。


「勝彦くんは疲れてるのよね?私が勝彦くんの分まで後片付けするわ!私、家庭的だから!」
「甘やかすな、かの子。ロクな大人にならないぞ。あぁ、すでにそうか」


ロクなやつじゃねぇってか。


「そーかもな」
「へ?」


だって、自分のこと何一つ分かってないんだ。
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