社宅アフェクション
私は不器用だから、顔を動かせないと視線をそらすこともできない。
ただ直人を見つめることしか……


「今日のグランドフィナーレでやる花火の時、みんなにバレないように非常階段に来てほしいんだ」


さっきまでの笑みは消えている。その表情は真剣そのもので……


「絶対にとは言わないし、来てくれたことを真綾の返事の代わりにはしない。これは…」


これは……?


「俺のワガママだから」


真剣な眼差しから一変、直人は少年みたいにニカッと笑った。私の胸がギュッとなった。


私の顔から両手をはなすと、直人は軽く手をあげ、頑張ってねと言って部屋から出ていった。
この火照った顔、どうすればいいんだろ……


          :
          :

教室に行くといつものメンバーはもうそろっていた。


「遅ぇぞ、あや子!寝坊か?」
「昨日ちょっと人気あったからって調子のってるんじゃないわよ?」
「かの子、女の嫉妬は醜いだけで…」
「違うっ!!京子は黙ってて!!」


あぁ…いつもの光景。なんか安心。


「あや姉、人気者なんだ!!すごいね!!」
「そんなほめられたって…恥ずか……えっ!?」
「今日のステージ発表も楽しみにしてるよ!!」
「り、りりり、大陸!?」


教室にいるはずのない人がそこにいた。


「どうして大陸がここに?」
「あや姉に応援言いにきたんだ!!朝会えなかったから。頑張ってね!!」
「ありがとう、大陸~っ!!」


私だけに向けられるとびきりの笑顔がうれしくて、私の胸がキュンとなった。


そのまま 大陸は軽く手をあげ、またあとでねと言って教室から出ていった。
身もだえする私を、佳乃がにらみつけている。


「なに、佳乃。顔、怖いんだけど」
「今日の真綾のシフト表。しっかり見といて」
「シフト表?」


そんなの昨日は……それに今日の午後は休みをもらってて……


渡されてしぶしぶ受け取った1枚の紙切れには “13:20 真綾、裏校門前に集合”とだけ書かれていた。
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