社宅アフェクション
軽音楽部が去っていき、幕が下りた。次ステージが見えた時には、確実に真綾がいる。


あいつの演技は小学3年以来見たことがない。
まだ始めたばかりの頃で、本番で大失敗して、大泣きしてたのを思い出した。


 …………………………………………………
「ふぇ~ん……うっうっ……………びぇぇぇぇぇぇん」
「うるせぇな‼いつまで泣いてんだよ‼」

顔を真っ赤にして泣きつづける真綾にイライラする。


「だって…だってぇ~!真綾がボール落とさなかったら絶対1位だったもん!真綾のせいだもん!うわぁ~ん‼」
「だから泣くなっ‼」


確かにこいつは失敗した。それが2位だった理由かもしれない。
でも、ボール投げながら踊ったり回ったり、そんなこと俺にはできない。俺にできないことを楽しそうにやってる真綾は、それだけで………すげぇのに………


「うっ…ふっ……ううぅぅ………」
「一生懸命やったんなら泣くな‼」
「ふえっ!?」


俺は真綾の頭に右手を置いた。真綾は驚いた顔をして泣き止んだ。
こうすれば落ち着くことを俺は知ってる。………こいつに教えられたから。
そんでこいつは、涙と鼻水でグシャグシャの顔で笑うんだ。
…………………………………………………


頭をなでるなんて恥ずかしすぎる行動、今の俺は絶対できない。すげぇな、あの頃の俺。


そんな昔話を思い出しているうちに、幕の上がったステージに明かりがついた。
真綾の姿に、蘭と凛が騒ぐ。


目が合ってしまった真綾の顔は、真っ赤で、でも笑顔だった。
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