社宅アフェクション
予想に反して、男子更衣室には誰もいなかった。佳乃にも会って、もう仕事は終わったもんだと思っていた。
まぁ、細かいことは気にしない…………冷てっ‼‼


「おーおーいい筋肉ですなぁ。部活も終わったってのに、まだ鍛えてるんで?」
「さ…酒田………お前いつ来て……」


服を脱いだ上半身に、急に不用意に触れてきたのは酒田だった。
無表情。怒ってるな、完全に。


「わ、悪ぃ……。いや、美里と…美里さんとの無理矢理校内デート30分がちょうど終わって、時間だし、今さら戻ってもって思ってさ!そんで直帰しようかと…」
「どうすりゃいいんだよ、俺はっ‼‼‼」
「……あ?」


どうやら違う話らしい……が………?


「ダチらはよぉ、なんか彼女作っていやがって……後はお前らだけが頼りだってのに、直人は先約の女がいるって言うし、お前は一関と見んだろ!?じゃあ俺はどうすんだよ‼高校最後を1人で過ごせってか!?」


いつもの口調じゃないし、態度に余裕もない。


「なんの話して……」
「花火だよ、花火‼ふざけんな、毎年一緒に見てたじゃねぇかよ‼‼」
「……俺も半強制なんだが………悪ぃな。あっ、京子いるじゃん」
「宮崎と二人きりで耐えられるかぁぁぁぁっ‼‼」


精神と理性、どっちの意味だよ?と、さらなる冗談をかましてみようかとも思ったけどやめた。酒田、年に1度見れるかどうかの勢いで怒ってるし。
とりあえず無視しよう。着替えの続きに戻った。


さっき、なぜかいつも集まっちまうメンバーの中で残りを考えた時に、京子と真綾が頭に浮かんでいた。でも真綾の名前を出さなかったのは、きっと直人の言う“先約の女”っていうのはアイツだけだと思ったから。


酒田の怒声も一時終息の兆しを見せ、気づけば更衣室は、同クラスの男子でにぎわいを見せつつあった。
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