社宅アフェクション
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「私はただ、忘れてほしかった。そしたら、笑ってくれると思ったんだ」
「そう……」


佳乃は寄りかかっていた石造りの門から離れ、祭りの続くにぎやかな校舎に向かって歩き出した。


「……でも」
「………?」
「私は勝彦くんにすべてを思い出してもらう。少しずつでも。それが勝彦くんのためだから。だから真綾……もう勝彦くんに近づかないで」


その声は本気だった。顔を見なくても分かる。だけど私は――――


「それは……できないよ………」


佳乃が立ち止まった。そして振り向いた。


「これ以上、勝彦くんと私を苦しめないで」


佳乃の目は――――――

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ごめんね、佳乃。やっばり私が話さなきゃ。
ちゃんと返してあげるから。

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「どうして俺のことを分かりたいって思ったの?それは期待しちゃってもいいってことかな」
「えっ……」


どうして?期待?
私は直人のこと何も分かってなくて、これじゃ好きも分からないから、だからただ、本当の直人を知らなきゃいけないって思っただけで……


「直人!わ、私は」
「あっ……」


空を見上げる直人に、つられるように顔を向けた先に、1つめの花火が咲いた。


「きれい……」
「本当だ。今は真綾とこんなきれいな花火を見れるだけで満足かな」


私は何も言えなくて―――

…………………………………………………


ごめんね、直人。
届いてるんだよ?直人が私を好きだって言ってくれた気持ちは本当だって。
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