社宅アフェクション
ベランダで菓子パンを頬張っていたら、2つ隣のベランダの戸が突然あいて、勝彦が出てきた。
公園と勝彦、両方がそろってしまった。でも、ちょうどよかった。


「待って、勝彦」


中に戻ろうとする勝彦を呼び止めた。話そう。話さなきゃ!


「話したことがあるの。公園に……行かない……?」


まるで神様が仕組んだかのように誰もいない公園。私が終わらせてしまった勝彦の記憶を返すには、あそこしかない。


「………分かった。準備すっから、5分くらいで行く」
「あ、うん。分かった。先、行って待ってる」


勝彦が意外に素直だった。“なんでだ” とか “行く必要ねぇ” とか “忙しい”とか言われると思ってた。
そっか。今がその時なんだね。勝彦もなんとなく分かってるんだ。過去に向き合わなきゃいけないって。


私は食べかけの菓子パンをリビングのソファーに放り投げ、玄関に急いだ。


早く………早く………


なぜか早く公園に行かなきゃいけないと、焦る私がいた。
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