社宅アフェクション
「え~と、勝彦に話したいことがあってね」
「知ってる」
「それで公園にきてもらったんだけど」
「知ってる」
「い、いい天気だね。誰もいないのが不思議なくら――」
「真綾!いい加減そらすな!」


勝彦の怒った声が公園から4棟の社宅に響いた。
分かってる、分かってるよ。でも私だって……


「そんなに怒らないでよ……私だって緊張してんだから……」
「俺だってしてる。まだ話を聞く準備できてねぇよ」


準備……そうか。私と同じ、心の準備か。じゃあ勝彦も分かってるんだ。今から話そうとしていることが何なのか。


「でも知らなきゃいけねぇんだ。俺がどっかで落としてきた記憶。じゃなきゃ進まねぇんだ。真綾がしたいのも、その話なんだろ?」
「……うん」


こういう時だけ、私たちはお互いの心の中が見えているみたいになる。
こういう、嫌な時だけ。


「私も、あまり詳しくはないんだ。たぶん、いや絶対に佳乃に聞いたほうがいい」
「……なら」
「でもね、私が話したいの。勝彦に思い出させたいの。返したいの!」


ベンチで隣り合わせに座ってから初めて、勝彦の顔を見た。


「ごめんね、勝彦。幸せな時は終わり。私が作ってしまった、偽りの幸せはここまで……」


勝彦は怪訝そうな顔をしていた。
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