社宅アフェクション
「その言葉が、俺の一番古い記憶だった」


勝彦の一言が重い。


あの日を境に、毎日ベランダでただ外を見ていた勝彦はいなくなった。あいかわらず笑うことはほとんどなかったけど、それでも私たちと遊ぶようになった。普通に話すようになった。


それが、ただただ嬉しかったんだ。


「勝彦、私は……」
「まだ、一番古い記憶のままだ」
「……思い……出せないの?」
「邪魔するんだ。俺の声が」
「声?」


なんだろう。私以外に話している声はないのに、邪魔するものって……


「この間もあった。昔のことを思い出そうとすると、頭の中に別の俺の声が聞こえる。知らないほうが幸せだよなって……」
「幸せ…」


過去を知らないことは、勝彦の本当の幸せになるの?それが偽りでも…?
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