社宅アフェクション

「勝彦…」


私は戸惑った。まったく同じだから。
言葉が、出せない……


「帰る」


唐突に、勝彦が立ち上がった。その顔は、まだ涙に濡れていた。


「待っ……」


言いかけてやめた。呼び止めて、何を言うつもりなの、私。
また言うの？私がいるからって？


「それじゃ意味ないよね……」


社宅に走り去る勝彦の背中につぶやいた。きっと彼は、すべてを思い出した。
これからどのヒトになるのかは彼自身が決める。もう私は必要ない。


「必要ない……の？」


胸がキュッとなった。


頼ってほしいとか支えになるとか、そういうことじゃない。
ただ、今まで勝彦のそばにいたのは、私が過去を忘れさせられる存在だったからで、思い出した勝彦にとって、今の私はいなくていい。


そう思う。でも……


「そんなのヤだよ……」


壊れたくない。失いたくない。こんなこと思ったのは初めてだ。
怖い ヤだ 怖い ヤだ


「どうして……？」


温度の感じない空を見上げた。