社宅アフェクション
父さんの部屋に入ると、拒絶していた理由が分かった。部屋にはたくさんの写真が飾ってあった。


「この写真………」


俺の小さい頃の写真だ。どの写真にも、必ず母さんが写っていた。


「おまえは母さんが大好きでな。いつもそばにひっついてて。おかげで母さんだけの写真を探すのが大変だった」


そういって、父さんは部屋の奥を見た。そこには仏壇と、満面の笑みを浮かべる母さんの遺影があった。こんなに近くに、母さんの面影はあったのに。


「大好きだったから受け入れたくなかったんだと思う。母さんが死んだこと。前に進んだふりをしてた」


俺は父さんに向き直した。


「あの日、俺は誰かと遊んでた。確か、その子の家で。仲良かったと思う。毎日のように遊んでた気がする」


男か女か、どんな顔でどんな声だったかは覚えてないけど。


「母さんも一緒だった。その子の母さんと、話したりお茶のんだり、俺たちを見て笑ってたり。とにかく楽しい様子を覚えている」


いつもそばに母さんがいて、だから俺は安心して楽しく遊んでたんだ。
すごく優しくて、明るくて、でも俺と同じさびしがり屋で……そんな母さんを忘れようと、いや、忘れてた自分に腹が立つよ。


ごめん―――


ちらりと遺影を見ると、母さんは変わらず笑っている。
俺は話を続けた。
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