社宅アフェクション
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僕は、おばさんが貸してくれた佳乃ちゃんの傘をさして、おばさんの傘を手に持って歩き出した。雨はちょっと強くなってきた。本当は一人はさびしくて怖い。でももう少しで母さんに会えるから大丈夫。


持つ傘が長くて歩きづらくて、いつもより時間がかかる。ようやく店が見えてきた。
店先にはたくさんの人が立っていた。あっ!母さんだ!


「母さ~ん‼迎えにきたよ~‼」
「勝彦‼きてくれたの?ありがとう‼」


母さんが僕に気づいて大きな声で呼んでくれた。あ、嬉しい顔だ!
でも、すぐに怖い顔に変わった。


「勝彦っ‼‼」


聞いたことのない母さんの声と、大きなブレーキの音。僕は後ろを見た。


車がこっちにくる。………怖い。体が動かない。
目をつぶった。体が浮いた。地面に叩きつけられた。でも、痛くない。何か温かいものに包まれてる感じがして目をあけた。


「母……さん?」


僕は母さんの中にいた。ぐったり動かない母さんの中に。


「母さんっ!?ねぇ、母さんっ‼」


ゆっくりと目があいた。


「勝彦…かつ……ひこ」
「いるよ?」
「勝彦……ケガはない?」
「うん。どこも痛くないよ」
「…よかった……」


変な感じがして、手を見た。血がいっぱい付いていた。


「母さんっ‼血が出てるよっ!?」
「母さんは……勝彦が無事なら……それ…でいい……」
「やだ、やだっ‼僕だけじゃやだよ!誰か助けてっ‼母さんを助けっ……」


母さんが僕のほっぺをさわった。手が震えている。


「ありがとう」


母さんの手が、地面に落ちた。母さんの顔は笑ってた。

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