極上な恋のその先を。
センパイのご帰還
「はあ……」
ここ最近、癖になってしまったため息がつい口をついて出た。
手元のコーヒーカップを見つめ、頬杖をつく。
大きなガラス張りの窓に視線を移せば、うららかな春の日差しがビルの群衆に降り注いでいる。
『――お前、名前は?』
こんな日は、思い出す。
センパイと、初めて言葉を交わした”あの日”だ。
仕事の鬼こと、久遠和泉。
彼と一緒に仕事をするようになって、その背中を追いかけて、いろんなセンパイを知って。
そして、恋をした。
あれから、3年もの月日がたっていた。
「……はあああ」
今日何度目かのため息が零れた、その時。
休憩室の扉が開いて、誰かが顔を覗かせた。
「渚さん!」
明るい声に誘われるように顔を上げると、ハニーブラウンの柔らかな髪を弾ませて、真山くんがあたしの前にやってきた。
「やっぱりここにいた。探しましたよ」
「? なにかあった?」
首を傾げると、真山くんは大げさに首を縦に振ってみせた。
「大ありです!」
ビクっ!
今にも掴みかかりそうな勢いに、思わず小さく身を引いてしまった。
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