極上な恋のその先を。
「なにそれ。行方不明?」
「違う違う。 ただ、向こうで磯谷さんと一緒にいたのは、ほんの数か月で。美優も他の仕事でこっちに帰ってきてるハズだけど」
「そ、そうなんですか?」
いきなり話に食いついてきたのは、渚だ。
身を乗り出して、心底驚いた顔をしている。
「? 詳しくは俺も聞いてないし、よくわかんねぇけど」
「だって。よかったね、渚ちゃん?」
「えっ?えっと、その……あたしは別に」
からかうような口ぶりの柘植の言葉に、素直に反応する渚。
思わずその様子を眺めてしまい、そんな俺の視線に渚は気まずそうに俯いた。
なんだそれ。
なんかムカつくな。
「……」
俺は小さくため息をつくと、脇に置いてあったジャケットと持って立ち上がった。
「センパイ?どこ行くんですか?」
背中に慌てたような渚の声。
視線だけ向けると、オロオロとした瞳が俺に向けられていた。
「……別に? ちょっと煙草吸ってくる」
「お、久遠!それならついでにビール追加してきてくれないか?」
真っ白な歯を惜しげもなく見せて、渡部部長が手を挙げた。
俺はそれに頷いて、さっさと歩き出す。
たくさんの人混みをかき分けて、公園の出口とは真逆に向かう。
5分もしないうちに、小さな池が目の前に現れた。
照明もライトもないせいか、さっきの喧騒が嘘のような静けさが広がっていた。
ポケットからライターと煙草を取り出すと、口にくわえた。
火をつけて、小さくそれを吐き出せば。
ふわりふわりと、白い煙が朧月夜に吸い込まれた。
もう一度加え、空を仰ぐ。
煙を吐き出しながら、そっと桜の木にもたれかかった。