極上な恋のその先を。


あっという間に、うららかな春は過ぎ。
初夏の日差しが眩しい、5月。


梅雨入り前の、爽やかな日が続いていた。



「ん~、今日もいい天気!」



アパートを出て、最寄りの駅に向かう。
学生やサラリーマンが行きかうこの道も、すっかり馴染んでしまった。


……あとどのくらい、この道を通うんだろうな。

なんて、ふとそんな事が頭をよぎる。


頬を撫でる風に誘われて顔を上げれば、新緑に色づく桜の葉が、サワサワと揺れていた。




電車に揺られ10分。
駅の改札を出れば、会社まではさほど時間はかからない。

同じ駅を使ってる時東課長と、たまにだけど会う事があって。
一緒に出勤してたりしたっけ。


鞄を肩にかけ直して、会社に足を向けた所で、ふと目の前を誰かが通り過ぎた。







なぜか気になって、彼の背中を追いかけた。



「あの、どうかされましたか?」


俯いた顔を覗き込むように見れば、その人は何か紙切れのようなものを手にしていた。


「ああ、ちょっと道に迷ってしまってね」


そう言って苦笑いを零して見せたその人は、50代……60代くらいだろうか。
彼の話によると、都内に住んではいるものの、この近辺に来ることは初めてだとか。

まだ、始業時間には余裕があるし……。


「よろしければ、住所見せてもらえますか?」

「え?ああ、ここなんだけどね。昔一度聞いただけだから合ってるかどうか」


そう言って差し出された紙を、覗き込んだ。



あ。


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