極上な恋のその先を。
「今日は部長も課長も出張だって?」
柘植さんがコーヒーを片手に振り返った。
ホワイトボードには、たしかにそう走り書きされていた。
高知か……。
今日は一日戻らないって言ってたっけ。
朝のつかの間の休息。
みんなで集まって、こうして今日の予定なんかを確認し合いながらコーヒーを飲むのが日課になっていた。
この時ばかりは、久遠センパイもパソコンではなくコーヒーを味わっている。
「あ、そうだ。知ってますか?」
「なに?」
スーツを脱ぎながら真山くんが楽しそうに言った。
首を傾げたあたしの隣に来ると、まるで内緒話するみたいに顔を寄せる。
「課長、来年結婚するらしいっすよ」
「え?」
持っていたコーヒーを落っことしそうになった。
慌てて両手で持ち直すと、真山くんの顔を見やる。
「それ、誰から聞いたの?」
同じように耳元に顔を寄せたその時。
「渚ちゃ~ん」
間の抜けたような声に顔を上げると、頬杖をついた柘植さんが楽しそうに笑った。
そして、小首を傾げ一言。
「こわーい顔で睨まれてるよ?」
「え?」
怖い顔……?
キョトンとしてさらに視線を巡らせば、あたし達の背後にもう一人。
久遠センパイ?