極上な恋のその先を。
ポカンとしてセンパイを見つめていると、あたしに視線を合わせる事なくクイッとカップを仰いでそのまま背を向けてしまった。
「ックク。 いや~、まさかイズミのこんな一面が見られるなんて。渚ちゃんってすごい」
「へ?それって……」
「柘植。お前それ以上口開くな」
「はいはい。怖いね~」
さらに意味がわかんなくて首を傾げると、隣にいた真山くんまで「え、センパイが?」って驚いている。
え、ほんとなに?
「俺、事業部行ってくるから。なんかあったら内線よろしく」
「あ、はい」
ヒラヒラと手を振り去って行く柘植さんを見送っていると、入れ替わりで誰かがオフィスに入ってきた。
それは……。
「うちをお探しだったんですね」
「あれ、君は……」
「あは。そうなんです、実はここで働いてまして」
「そうだったのか。こんな偶然あるんだね」
嬉しそうに笑った彼は、さっきあたしがここまで案内した男の人だった。
「あの、どうかされたんですか?」
聞くと、彼は「そうだそうだ」と思い出したかのように笑った。
「久遠和泉は、ここにいますか?」
「久遠……ですね? はい、お待ちください」
センパイのお客様だったのか。
来客があるなんて、聞いてなかったけどな。
そんな事を思いながら振り返ったその時。
―――バサバサバサ!
大きな音がして、床に資料が散らばった。
え?
その先を見ると、そこには立ち竦んだセンパイがいて。
アーモンドの瞳を見開いて、息を呑んでいる。
そして、小さく呟いた。
「……オヤジ……」