極上な恋のその先を。
それからほどなくしてセンパイはオフィスに戻ってきた。
その様子は普段と変わらないように見えて……。
「センパイ、あの」
「……」
「センパイ?」
パソコンの画面を睨むセンパイの肩に、遠慮がちに触れる。
そこでようやくあたしの存在に気付き、ゆっくり顔を上げた。
やっぱり変。
心、ここにあらず。
センパイに限って今までそんな事一度もなかった。
ましてや今は仕事中なのだ。
もしかして……今朝、お父さんと何かあったのかな。
考えられる原因はそれくらいしか思いつかなかった。
それぞれのパーツが、嫌味な程整っているセンパイの眉間に深くシワが刻まれた。
知らず知らずにジッと見つめていたらしい。
身体を椅子の背もたれに投げ出しながら、センパイがくるりと向き直った。
「なんだ?」
肩肘をデスクに乗っけながら、首を傾げる。
真っ直ぐに見つめられれば、性懲りもなく頬がアツくなる。
身体は、正直だ。
でも、それをごまかすようにフルフルと首を振った。
「センパイは、今日も残業ですか?」
「え?」
センパイのデスクには、いくつかの資料は広がっているものの、はかどっているようには見えなかった。
あたしの言葉にハッとして、センパイは慌てて時計を見上げた。
「やべ、もうこんな時間か……」
そう言うと、小さくため息をついてカチカチと、マウスを動かした。
パソコンのスイッチを切ったセンパイは、鞄とジャケットを無造作に持ち上げてあたしを振り返った。
「わり、今日は先に帰るな」
「え?」
か、帰る?
さっさと身支度を済ませて去って行く背中を茫然と見つめていると、センパイは視線だけをこちらに向けた。
――ドキン
ボサッと突っ立ったままのあたし。
そんなあたしに一言。
「……、お疲れ」
「お、お疲れ様……でした」
足早に帰って行く久遠センパイ。
……やっぱり、らしくない。