極上な恋のその先を。
俺のハチ公は。
「はあっ!はあっ!」
何度も転がりそうになりながら、あたしはようやく立ち止まった。
両ひざに手をついて、なんとか息を整えた。
大きく息を吸い込んで、鞄をグイッと肩にかける。
顔を上げれば、立ち並ぶビルの明りがキラキラと降り注いでくるようだった。
いつのまにか空にはキレイな三日月。
眠らないオフィス街の中でも、その存在をしっかりとあたしに知らしめているようだった。
31階。
きっとあそこにセンパイはいる。
あたしは社員証と取り出して、休日用の小さなドアからビルに入った。
カツン カツン
仕事をしてる人がいると言っても、今日は日曜日。
ずいぶんとひっそりしたものだ。
やたらとヒールの音が響いて、なんだか心もとない。
エレベーターで31階に向かうと、あたしは息をひそめて薄暗いオフィスの覗き込んだ。
「……」
大きなガラス張りの窓。
そこから見えるのは、いつもより遠慮がちに光を放つビルの群れ。
そして……自分のデスクの光だけで、資料を見つめているセンパイの後姿があった。