タイムマシーン
小宮くんが去った後も
相変わらず甲斐くんシャツを握ったまま
左手のウサギを見ていた
甲斐くんは
「後は時間が解決するさ」と言って
シャツを握っていた
あたしの右手をとり
ベンチへと連れていった
「篠崎、大丈夫?」
「うん…大丈夫。何か拍子抜けしちゃって。
それに、よく分からなかった」
「そっか」
「あのね、聞きたいこと沢山あるんだけど…」
一番聞きたいのは
「小宮くんの勘違いって何?」
「んー…まあ一言でいうと、
小宮はお前が好きなんだよ」
は?
意味が分かんないんですけど
「好きだからちょっかい出すってやつだ」
「ちょっかいじゃないよ。あれはただの意地悪だよ!」
「小宮が“俺といたら泣く”って言ったのは
お前が俺といると“あの事”を思い出すから泣くと思ってたらしいぞ」
「篠崎を泣かせたくなかったんだろ。
でも違うことに気づいて…ま、暴走したというか」
「で、お前を俺に話させなかったのは
ただのヤキモチだ」
「……なにそれ!?そんなの!」
そんなの分かんないよ
「あの事故の直後を見てたみたいなんだ。
だから…秘密を共有したかったんだと思う」
色んな情報がいきなり入りすぎて
頭がついていかない
「小宮は…結果的にやり方を間違えてしまったって言ってた」
あの頃のあたしに、そんなこと分からなかった
今だって、あの月のように半分しか分からない
いつか分かる日が来るのだろうか
いつか『そんなこともあったね』と話せる日が来るのだろうか
あの頃の自分が
今の自分を想像できなかったように
未来の自分なんて分かるはずもない