はぐれ少女と吸血鬼
泡沫の森
(……迷った)
視界は緑に埋め尽くされ、どこへ行こうとしたらいいのか、まずどこから来たのか…
全く分からない
生い茂る木々と上からの光。角度によっては空も見えるがほとんどは分からない。
小気味の良い小鳥の声と、サワサワという風と緑葉の奏でる旋律は心安らぐものだった。
だが…
(ど、どうしよう………)
既に半泣き状態になっているフェルには些細な風の音でさえも耳に入らなかった。
(み、皆とはぐれちゃった………)
気付けばもう日は傾きかけ、群青色が空を支配しようとする時間帯だった。
その現状はフェルを十分に焦らせた。
フェルはいつもよりより速く歩を進め、どっちがどっちか方角も分からぬまま意に従い歩く。
生い茂るツルや枝や葉や根はフェルを嘲笑うかのように邪魔した。
フェルは"みんな"とはぐれてしまった焦りや申し訳なさや、薄暗がりの道なき道を進んでいく恐怖や不安やらで爆発しそうだった。
(早くっ…早くみんなにっ………)
そう思えば思うほど息は荒くなり、つまづき、挙句の果てには転んでしまった。
じわりと涙で視界が揺れる。
手も、足も、服も、背中まである銀に近いくせのある金髪も、葉や傷や泥で汚れてしまっていた。
興奮し汗ばんだ体に赤い擦り傷ができる。
少量の泥を含んでしまった血は、フェルの心を蝕んだ。
(っ…………)
声を押し殺して涙を流す。
ゆっくりと立ち上がり、おぼつかない足取りでまた前へと進んだ。