あの日の記憶は湿った空気のにおいと君の泣き顔に彩られている
「おーい」
顔の前で立川に手を振られる。はっとして、顔を横にずらすと立川が心配そうな目でこちらを見ていた。
「あっ」
「ぼーっとしてたけど大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫……ちょっと考え事」
「なに?」
「いやー立川と明信付き合ったらおれ教室でぼっちだなーって」
「ちょっとシャレにならないんですけどー」
立川はえくぼを作って破顔した。おれは本当に、この笑顔が大好きだ。とっくり堪能して満足に浸ってみたが、心の隅の方では、シャレにならない、そんなの見たくないと立川の一番になりたがるおれが悲鳴を上げていた。
そうか。ついに、そういうことになったのか。
親友は、明信は、きっと首を縦に振るだろう。明信の立川に対する信頼や考えがかなり上の段階に来ていることは、明信の態度と費やしてきた時間の長さで容易にわかることである。
おれは明信の口から立川が気になるだとか好きだとかを直接聞いたわけではないが、立川なら付き合ってみようと思えるはずだ。
自分に言い聞かせるためにさっきの話を蒸し返した。
「ああ告白の話なんだけどさ、それっていつ?」
「昼休み。S2教室ってラインで言ってある」
「そうか、頑張れよ」
「うん!」
立川の笑顔はやっぱり眩しいままだ。