琴宮荘

「いろいろ説明しないといけないことがあるので、少しここでおかけになってお待ちください」

宮辺さんに案内されたのは、ちょっとした会議室のような部屋だった。
私がソファーに腰を下ろすと、宮辺さんがお茶を持って戻って来た。

「麦茶です。どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「それでは改めて。この度は琴宮荘にきてくださり、ありがとうございます。私は琴宮荘の管理人、宮辺柳彦と申します。これからよろしくお願いします」

「あ、は、はじめまして。私は蒼井美波です。こちらこそ、これからよろしくお願いします!あ、あの、失礼ですが、おいくつでいらっしゃいますか?」

宮辺さんはとても落ち着いた雰囲気で、同い年とは思えなかった。
見た目が幼く見えるだけだろうと思った私は、年齢が気になってしょうがなかった。
すると宮辺さんは、笑いながら聞いてきた。

「いくつに見えますか?」

「えっと、18かなって最初思ったんですけど、すごく大人っぽくて……21とかですか?」

「ふふふ。蒼井さんより1つ下なんですよ」

「えぇ!?17ですか?」

私より年下でこんなに落ち着いていて、しかもアパートの管理人だなんて……初めて出会った人種だ。世界はとても広いですね……。
小説に命をかけていた私は、勉強なんてものはろくにしたことがなく、高校もレベルの低いところへ通っていた。
そのため、私の学校にはヤンキーだの不良だのという人しかいなかったので、こういった良い人に会うのは久し振りかもしれない。

「蒼井さんはバイトも希望でしたよね?」

「あ、はい!私バイトとかなにも経験が無いんですが、大丈夫ですか?」

そう、一番心配なのはバイトの内容だ。
月収30万と書いてあったが、果たして私に出来るのだろうか。

「大丈夫ですよ。バイトの内容は、いわゆる家事なので。なにぶん住人が多くて、私一人では食事の支度が大変で……」

「食事の支度……」

「後は時々私の手伝いをしていただけたら嬉しいです」

「え?それだけでいいんですか?」

食事の支度と手伝いで30万なんて、こんな素敵な仕事はきっと他には無いんじゃないだろうか。

「食事の支度が一番大変なんですよ」

「でも、みた感じそんなに部屋ありませんでしたよね?」

そう、外からみた感じだと、多くても8人とかそれくらいの人しか住めなさそうだった。

「ここが琴宮荘だとお思いでしょ?」

「え?違うんですか?」

「ここはお客様専用の建物ですよ。それでは、早速ですが説明の前に琴宮荘、ご案内しますね」
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