琴宮荘
「本当にごめん」

私の前で、宮辺さんが土下座している。

「まさかいきなり冬彦が出てくるなんて思わなくて。それに契約も……」

「大丈夫ですよ。宮辺さんのせいじゃないって分かったので。顔を上げて下さい」

泣きそうな顔で謝る宮辺さんが、少し可愛らしく思えた。
どうやら、宮辺さんの中にいる琴辺さんは、この土地の神様らしく、私は琴宮荘に住民登録したことによって、その神様に仕えるという契約をしてしまったらしい。

「とにかく、契約が切れるまではこの土地から離れられないってことなんですよね?」

「はい。この山を出ることはできるんですが、長いこと離れていると、祟られます」

昔一度、宮辺さんが長くこの土地を離れたことがあるらしく、そのときは死にかけたとか……。
とにかく神様に逆らうと大変なことになるらしい。

「冬彦が初めて普通の人間を入れようって言ったから、嬉しくて、こんな事になるなんて思ってなくて、まさかバイトの話が契約だったなんて……」

「お、落ち着いて下さい、宮辺さん。宮辺さんのせいじゃありませんから。私もしっかり書類を読んでませんでしたし。」

本当に泣いてしまいそうな宮辺さんを、とにかく落ち着かせなくては。

「私が契約したの、二年間ですし!二年間くらい、何とかして見せます!」

「本当にごめん。じゃあ僕は、二年間蒼井さんを絶対に守ります!それに、ここにすんでいる皆は、そんなに悪い人じゃないから安心してください」

「はい!妖怪でも悪魔でも慣れてやりますよ!」
< 6 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop