Sweet Rain

雨の降りしきる中で

「どうも」

シャワーを浴び終えた彼女がドアの向こうから静かに出てきた。

頭にはタオルをかぶせ、だらんと垂れ下がる髪の毛はさっき見たときよりも長く思えた。

「ドライヤーならそこにあるから、勝手に使ってくれて構わないよ。コンセントはベッドの脇にあるから」

「すみません」

不安げな足取りで僕と弟の間を通過していく。

その時、彼女の足の付け根に痣を発見した。

楕円に縁取られた痣は黒紫色に染められ、当たり前のようにそこに居座っていた。

「なあ、あれ……」

「ん?」

「あの痣だよ」

「……それで?」

「それでって……いや、なんでもない」

そう、という弟の声は興味がないなと言いたげだった。

ただ、何も事情を知らないわけでもなさそうだった。

「あの、これでいいんですよね?」

彼女の声に僕は笑顔で返答した。

全ての言動が恐々としている彼女には、どうやらこの空間に未だ慣れない様子だった。

まあ、見知らぬ男の家にいきなりやって来て、まるで自分の家のように寛ぐ女の子もどうかとは思うが。

コードをコンセントに繋げて彼女が髪を乾かし始めたところで、弟が立ち上がった。

「俺も浴びてこようっと」

ドアの閉まる音がすると一瞬だけ彼女の肩が揺らいだ。

ビクついた、と言ったほうが適切かもしれない。

恐らく同じ空間にいるのが僕とだけになってしまったからだろう。
< 11 / 44 >

この作品をシェア

pagetop