Sweet Rain
「とにかく。俺の家に来て、しかも見知らぬ女の子まで一緒にっていう経緯くらいは、ちゃんと話してもらおうか」

最後の煙を吐き出した。

頭を切り替えるようにして弟の言葉に耳をそばだてた。

弟は目を瞑っていた。

雨音の一つ一つを取りこぼすことなく拾っている、そんな細やかな行為をしているようでもあった。

そして、弟の横顔はいつ見ても美しかった。

「なあ、兄貴。タバコ一本、くれないか」

弟はまだ目を瞑っていた。

「いいよ、ほら」
と言うと、弟が瞼を開き僕のほうに目を向けた。

「ありがと」

か細くそう言うと、一本つまみ取り、僕の差し出すライターの炎に顔を近づけた。

タバコの煙がまた雨雲に向かって漂っていった。

弟のそれもまた、僕と同じように居場所のできなかった煙だった。

「あの子と会ったのは、本当に偶然だったんだ」

「初めからあの子を兄貴の家に連れて行くつもりなんてなかった」

「だけど、気がついたらあの子と一緒に走っていた。兄貴の家に向かって」

そこで僕は答えになっていないことを告げようと、弟に詰め寄ろうとした。

しかし、弟は手のひらで僕を制すると、目で訴えかけてきた。

まだ、話は終わってないぞ、と。
< 21 / 44 >

この作品をシェア

pagetop