Sweet Rain
「あの子の名前、そういえばまだ言ってなかったよね」

僕は先を進めてと目で合図をした。

「あの子の名前は佐々木杏。歳は僕より一個上らしいけど、それ以外のことはよく知らないんだ」

そこまで言って僕は反射的に反応してしまった。

また秘密にされるのだと思ったのだ。

「本当なんだ。本当に、それ以上のことは知らない。ただ」
と付け加えた上で、弟の表情の雲行きが怪しくなった。

「ただ、彼女の抱えている不幸だけは知っている。教えてもらったんだ」

弟のタバコの火が口元近くに吸い込まれていった。

煙が再び空に放たれた。



「彼女は、虐待を受けている。父親からも、母親からも、そして、実の兄からは性的虐待を」
< 22 / 44 >

この作品をシェア

pagetop