Sweet Rain
「彼女の実の両親てのはさ、もう亡くなってるんだ。3年前の不慮の事故だって聞いてる。だから今は父方の叔父夫婦が親代わりなんだって。実の兄貴もそこで一緒に暮らしてる」

僕は相槌を打つことなく、黙って車を走らせつづけていた。

「暮らしはじめたばかりの頃は叔父夫婦とも仲良くやっていたらしいんだ。叔父夫婦は2人の兄弟に優しく、2人もまた叔父想いの出来た兄弟だった。でもやがて彼女の兄貴が叔父夫婦と対立しはじめるようになったんだよ。初めは些細なことからだったんだ。その当時兄貴は大学3年生でよく家をあけることが多かったらしい。朝帰りなんてしょっちゅうだ。叔父夫婦も大学生だからと大目に見てはいたらしいだけど、ある日たまたま朝帰りだった兄貴と叔母が顔を何日かぶりに顔を合わしたのが全てのはじまりだったんだ。その時、大学のことで色々とゴタゴタしてた兄貴は久しぶりに叔母と口を交わした。叔母はそんなつもりなかったんだろうけど、心配するつもりで初めて強く当たってしまったんだ。こんな時間までどこをほっつき歩いてるんだってね。それまで叔父夫婦に叱られたことのない兄貴は逆上し、突発的に叔母を背後から殴ってしまった。酷かったらしいよ、その時の状況は。頭からは大量の血が流れ、病院に運ばれた時にはすでに意識がはっきりとしていなかったらしい。その後、数ヶ月間叔母は入院し、叔父は身の回りの世話のために勤めていた会社を退職した。兄貴は一度も見舞いにも来なかったらしい」

弟はチラッと後ろを振り向き、彼女の姿を確認した。

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