Sweet Rain
「それからなんだ。叔父夫婦と兄貴、それに彼女の関係が狂ってきたのは。元々実の親ではない叔父夫婦は兄貴のことを目の敵に見るようになったんだ。退院してからは叔母が酷く兄貴を恐がるようになってね、家では部屋から一歩も出ない生活がつづいた。兄貴は兄貴で大学を勝手に辞めて、就職もせず家に引きこもるようになったんだ。そんな兄貴に叔父がとうとう痺れを切らしたらしい。兄貴とは毎日のように口論を繰り返し、時には暴力を振ったり、反対に振るわれることもあった。そして、叔父の怒りの矛先はやがて姪っ子である彼女にすりかわっていった。兄貴では体格的にも自分がやられてしまうと感じたんだろうね。まだ子供だった彼女に手を出しはじめるようになった」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。おかしいだろ? それは。兄貴には負けてしまうからじゃあ自分より弱い妹に手を出すようになったってのか? まるで弱いものいじめじゃないかそれじゃあ」

「そうだよ」

「そうだよって……お前」

「でも、それが現実だったんだ。自分を助けてくれるはずの親、実際は血の繋がっていない親だけど、彼女は虐待を受けはじめるようになった。そして、今度は実の兄貴からも標的にされはじめたんだ。兄貴はそれまで叔父とぶつかることで自分の中に生まれる怒りや苦しみを鎮めることができていた。けれど、突然叔父は自分を相手にしなくなり、兄貴にはストレスを解消する相手がいなくなってしまった。そこで、実の妹をその対象にした。初めは軽く暴力を振るう程度で収まっていたんだけど、ドンドンその行為はエスカレートしていった。そして、いつの間にか妹を強姦するようになっていた──────」

弟の言葉は僕には現実味を帯びなくてどこか遠い世界のことように感じられた。

少し焦ったように、それもあまり上手じゃない話し方で弟は自分の中で自分の紡ぐ言葉を一語一語理解していくかのように僕に説明してくれた。

ふとフロントミラー越しに彼女の姿が目に入った。

閉じられた瞳から、かすかに涙が流れている気がした。


< 34 / 44 >

この作品をシェア

pagetop