Sweet Rain
「……兄貴はいつもそうだな。いつも面倒なことには関わろうとしない。いつも楽な道を選ぶ」

「俺は頭のいい選択肢を選んでるだけだ」

実際、頭がいいというだけならお前のほうが俺なんかとは比べ物にならないくらいにいいけどな。

「このまま私を家まで送り届けてください」

突然、背後で彼女の声がした。

「このまま私を実家まで送り届けください。それならいいでしょ?」

「起きてたのか」

「ついさっきですよ」

彼女とフロントミラー越しに会話しながら、僕はあくまで冷静を保っていた。

「弟の言ってること、俺にはよく理解できなかった。君には弟が何を言わんとしてるのかわかってるってのか?」

「そうです」

「こんな風に言うのもどうかと思うんだが……後悔しないんだな?」

「はい」

「そうか」

「後悔なんて、しませんよ」

彼女が少し笑って言った。

それは自分自身を嘲笑しているようでもあった。

けれど、僕には彼女の本当の笑みの意味がその時はまだわかっていなかった。

「いいだろう。付き合うよ。けれど俺は何も知らないし何も聞いてない。ただ君を君の実家にまで送り届けるだけだ。それ以上のことはしない」

「はい」

「悪い、兄貴」

「もういいさ」
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