Sweet Rain
小学生の頃、担任の先生が担当する授業の教科書を忘れてしまい、違うクラスの男の子に教科書を借りたことがあった。

確か、数学の教科書だ。

その先生は忘れ物をひどく嫌う先生で、これまでにも何度か忘れ物をした生徒には体罰なる──あくまで軽いもの──ものを与えていた。

僕はその日は借りたおかげで問題ないだろうと高をくくっていたのだがあるクラスメイトが突然叫びだしたのだ。

『あれ?! 僕の教科書がないよ!!』

『忘れたのか?』

と先生が訊き返すとその生徒は泣き叫ぶような顔でこう言った。

『無くなってるんだよ!! 先生!! どうしよう……!! 誰かに盗られたのかも!!』

『そんなわけがあるか!! はっきりと正直に言いなさい!!』

『違うよ違うよ違うよ……!!!!!』

とうとうその男の子は泣き出してしまったわけだが、少しすると泣きながら男の子はこう言った。

『もしかしたらこの教室の誰かが盗ったのかも!!!』

まさか、と僕は心の中で笑っていた。

先生もその男の子が嘘をついていると信じて疑わなかった。

なぜならその男の子はクラスでも有名な忘れ物の常習犯だったからだ。

しかしその男の子のあまりの喚きように、先生も困り果てついには授業を一旦中断して皆の持ち物検査に入ることになった。

それぞれの教科書の裏側を表にして机の上に置いてだせ、という指示だった。

僕は自分のものではない、ということを先生にどやされるのだなと危惧したが、今の状況を見る限り普段ほど怒られることはないと思っていた。

しぶしぶ机の上に教科書の裏側を表にして出した、その時だった。

隣にいた女の子が大きな声を上げたのだ。

それは教室内全体に広がるような甲高い叫び声だった。

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