Sweet Rain
『ありがとね、ホント。後で返しに行くから』

『いいよいいよ。その本も返さなくていいから』

『え? でも、困るでしょ? これがないと』

『いいんだって。また誰かに借りればいいんだし』 

『いや、ちゃんと返しに行くよ』

『そうか? ならまあ……いいんだけどよ。でもホントにいいんだぜ? だってホントはそれお前のクラスの……』

そうだったのだ。

僕はその時になってようやく思い出した。

この教科書の本当の持ち主は僕のクラスメイトだった。

あの時焦っていた僕は友達の言葉もまともに聞かず、急いで教室へ戻って行ったのだ。

そして友達は学年内でも有名な『借りパク』の常習犯だった。

彼に何かを貸すと当分の間それは帰ってこないのだと、有名なくらいだった。

そして今、そのことによる弊害が僕のもとへと──それも当人である友達はペナルティを受けることなく──向かってきた。

当然僕は何度も何度も弁明を繰り返した。

これは友達ので、僕が盗ったわけではない、と。

しかし誰も僕を信じようとはせず、その日、僕は初めて先生から特大のゲンコツをお見舞いされた。
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