幕末オオカミ 第二部 京都血風編
自然に、世間話でもするつもりでいけばいいんだ。
ついでに生国や身の上話を聞けたら幸運。
「あ、明里姉さん」
勇気を出して声をかけると、廊下を先に歩いていた明里さんがこちらを振り返る。
『一体何?』と言わんばかりの、眉をひそめた怪訝そうな顔をしていた。
「あた……うち、新入りの紅葉です。
ちゃんとご挨拶するのがまだだと思って」
「紅葉ちゃん……ああ、新撰組の沖田はんに水揚げされたっていう?」
水揚げっていうのは、遊女が初めて男に体を売ること。
たしかにあたしの初めての男は総司だけど……って、違う。
なんで総司があたしを買ったことを知ってんの!?
「姉さんたちが噂してた。
新撰組で土方はんの次に美丈夫だって有名な沖田はんが、あんたを買うたって。
宴会の後も床入りをしないので有名だったのにて、随分不思議がられてるで」
そっか……本当に沖田が初めて買ったのが、あたしだったんだ……。
って、ちょっと嬉しくなっている場合じゃない!
「は、はは、なんででしょね。
自分も慣れてないから、初心な女が良かったのかな……」
「ま、どうでもええけど」
明里さんはぷいと前を向き、また歩きはじめてしまう。
うう……疲れてるのかもしれないけど、感じ悪い。
山南先生に向けた笑顔は本物なのかな。